アースドーン展開史

~おお、勇者を死んでしまうとは情けない~
とある、王様の言葉

人類は滅亡の危機に瀕していました。
異世界から侵入してきた存在、ホラー。
人の苦痛を喰らうと言うその存在との共存は難しく、撃破するにはあまりにも強力すぎました。
このホラーの脅威にいち早く気づき、対策を研究したセラ帝国が提供する魔術により人類は数百年間の避難生活を行うことになります。
ゲームの舞台はそんな最悪の時代が終わった後の世界。
人類が世界を復興させた世界。
まだ、世界にはホラーの残党が残り人類を狙っています。
セラ帝国は防護の対価として服属を求め、人々は自由を希求する。

アースドーンはそんな世界を舞台にしたファンタジーTRPGです。
主要舞台は古代地球の中央ヨーロッパであるバーセイブ地方。

一見オーソドックスなファンタジーに見せかけ、PCにトロールやオーク、岩人間オブシディマンやトカゲ人間トゥスラングがいたり、盟主国がドワーフ王国だったりと一風変わった世界観を持ちます。

そんなアースドーンは1993年アメリカのFASA社により製作されました。
元々FASA社はシャドウランやバトルテックなど比較的SF系のTRPGに定評があるメーカーでした。
そんな彼らがD&Dのとルーンクエストと正面決戦をするつもりで発売されたのがアースドーンなのです。
シャドウランとクロスオーバーさせたり、魅惑的なドラゴンを登場させたりと意欲的に展開をしていました。
日本でも1997年にグループSNEの柘植恵先生の翻訳で日本語版も発売されていました。
日本語版は基本ルールにワールドガイド、シナリオ2冊、小説1冊の翻訳と日本語オリジナル小説が2冊、雑誌掲載リプレイが1話ありました。

FASA社のシステム展開の癖なのですが、ゲーム内時間も現実に連動して進むと言う物があります。
アースドーンでもこれはあり、いわゆる悪の帝国セラ帝国とドワーフ王国スロール王国の戦争が起きるキャンペーンが展開した際に悲劇が起きます。

FASA社が倒産したのです。
これによりアースドーンのセラ戦争の最後を飾るサプリメントであったドラゴンソースブックは完成したものの販売ができず無料公開されていました。

ここからアースドーンの不遇の時代が始まります。
シャドウランのメインデザイナーであったジョーダンKワイズマンが新会社であるウイズキッズを立ち上げシャドウランとバトルテックの販売権と開発メンバーを連れて行きます。
一方アースドーンは開発メンバー事リビングルームゲームズ社に移管されます。

リビングルームゲームズからは1999年にアースドーン第二版を発売しますが、システムはマイナーチェンジに留まります。
そして、FASA倒産により発売できなかったセラスロール戦争の結末とその後を扱ったキャンペーンサプリとかつて無料公開されたドラゴンソースブック、数本のシナリオ、ディシプリンのバリアントを扱ったサプリを発売し2005年にアースドーンの展開を終了します。
しかし、少なくとも2版では第二次セラ戦争終戦後、セラと言う重石を失い対立するバーセイブ、そして、セラに対して使った魔法によるホラー対策という2つのメインプロットが提示されていました。

リビングルームゲームズが旧FASAのサプリを販売しなかったこともあり、2003年からニュージーランドの同人企業レッドブリックが旧FASA時代のサプリのPDF版の販売を開始します。

そして、リビングルームゲームのアースドーン撤退を受けて、レッドブリックが2005年にアースドーンクラシックとしてアースドーンの販売を行います。
舞台の時代はFASA時代のものを踏襲し、時代を進めることを否定した部分もクラシックと言う名に良く現れています。
このクラシックではサプリこそないもののシナリオや小説を精力的に販売します。

そして、レッドブリックよりついにアースドーン3版が2009年に発売されます。
ゲーム内の時代はFASAとリビングルームゲームズの間の時代とし、2版の歴史を否定するものでした。
3版でルールが若干整理されアンバランスなデータの調整や賛否両論だったD20やD4の使用をやめるなどシステムに大きく手を入れます。
また、これまで詳細が語られていなかった盗賊都市クラタスや極東地域キャセイを紹介するサプリも発売されました。

しかし、同人企業で精力的な展開には限界があり、レッドブリックも解散することになります。

アースドーン愛に溢れるレッドブリックの社長は単身アメリカに渡り、FASAの社名を買取FASAを復活。
そしてキックスタートにより資金を集め2015年に4版が発売されました。
第4版ではセラ戦争は終戦し、歴史が動きますが、2版とは異なる歴史を書こうとしています。
今回の4版では基本ルールと上級ルール発売後に、北のエルフ王国であるショサラ王国のサプリが出る予定なので出ることを祈りたいものです。
余談ですが、ショサラ王国にはシャドウランで猛威を振るったイモータルエルフであるハーレクインがいたはずですので、いかに描写されるのか興味は尽きません。

2016年にはドイツのバグラントワークショップより違うルールのアースドーンであるザ・エイジ・オブ・レジェンドが発売されました。
こちらはアースドーンの世界観を共通にルールだけ置き換えたものになります。
まだ、基本ルールが発売されただけですが、基本ルールに既出のFASAのアースドーンサプリが掲載されていますので世界観に手をつけるつもりはないのでしょう。
賛否両論ある(こればっかりだ)アースドーンのステップシステムを用いずに伝説の時代を楽しみたいとの意向から作られたようなので当然かもしれません。
システムはフリーシステムのFUをベースに作成されているようです。
独特のシステムなので馴れは必要になりそうです。

以上のようにユーザーの愛により命脈を保っているゲームなわけですが、非常に魅力的な世界観を持つゲームです。
特に多重の価値観が交錯することにより比較的簡単にシナリオ作成を簡単にしているのはゲームとしても読み物としても非常に優秀と言えます。
多重の価値観の例として種族の考え方、所属国家の考え方、ディシプリン=職業としての考え方などが往々にして摩擦を起こします。
そして当然ながら利益の奪い合いによる対立もあります。

ご興味が湧けば手始めに柘植恵大先生の小説『黎明の勇者たち』をご一読いただければと思います。
アースドーンのエッセンスを詰め込んだ入門に最適な小説です。